株主総会議事録・取締役会議事録・決議証書

フィリピンの会社法上、会社の業務執行に関して毎月或いは付属定款に記載された頻度で定期的に取締役会を開催して協議を行い決議しなければなりません。また、年に一度は株主総会を開催して会社の重要事項に関し決議をすることが求められています。

こうした議事録の具備は会社が役員を変更する場合や、株式の譲渡を承認する時など組織の重要な意思決定を対外的に証明する有効な法的書類となります。また銀行口座を開設するときや借入を行うとき、所定の手続きを社長以外の方に委任する場合には取締役会でその旨が決議された書類の提出が都度求められます。

すなわちフィリピンでは組織としての意思決定が社内的だけでなく対外的にも正式な手続きであることを強い証明力のある書類にて示すことが取引開始の第一段階といえます。

株主総会や取締役会議事録、決議証書の必要性

企業はさまざま場面において高度な経営判断が求められ、そのたびに議事録や決議証書を作成します。
会社の規模を問わず株主総会や取締役会等を開いた場合には必ず議事録を作らなければならないとされており、対外的な取引や社内手続きを行う際の役割や責任を明確にするためにもそれが正式な手続きである事或いは会社がその方を正当な選任手続きを行ったことを示す決議証書の提出が求められることがあります。また議事録の作成は会社法上の義務であるため議事録の作成は毎回行うようにしておきましょう。

以下、議事録や決議証書による役割や責任分担を明記しておかなかったことにより実際に発生した事例です。

ケース1
日系企業が現地企業に資本参加して失敗したケース

日系企業は海外で活動を始める段階では現地に活動拠点や人材、サプライチェーン、販路を持っていないことが大半であり、現地企業の人材やサプライチェーンを活用したり、公共工事の入札参加を行うことがあります。しかしフィリピンの外資規制において事業活動を行う企業の外資比率は基本的に40%を上限と定められていることがあります。すなわち、経営参加はできても意思決定について最終決定権を持てないケースが発生し、そこで現地企業が日系企業の承諾を得ずに事業方針を決定したことが、後々の競業避止義務の違反や利益相反に繋がり裁判や提携解消などの問題に発展するだけでなく相互不信に繋がる可能性があります。

以前のクライアントのケースでは40%を日本企業が、60%を現地企業が出資してフィリピンに合弁会社を設立しました。毎年の利益を資本参加比率で分配する約束で業務を開始しました。 合弁事業において仕入を担当しているのが日系企業、現地でのオペレーションを取り仕切っているのが現地企業というビジネスモデルで共同事業にかかる収益と経費を合弁会社で計上するという計画でした。しばらくは合弁会社では毎月目標黒字を達成することが出来ました。しかし翌年からは合弁会社の稼働率が上がっているにも関わらずなぜか毎月のように赤字が累積されてきます。不審に思った日本サイドはビジネススキームの調査に乗り出しましたところ、合弁事業の直接的な売り上げは先に現地のフィリピン企業に入っており、25%の利ざやを抜いた金額を合弁会社に入金されていたことが発覚しました。 つまり本来の利益部分が合弁会社でなくフィリピンの現地企業に付け替えられていたのです。しかし合弁会社を立ち上げる時には利益相反に対する補償を明記した書類を作成していなかったために、今までの逸失利益を取り戻すことができないまま、ほどなくして合弁は解消されました。このスキームの問題点は日本企業の株式持ち分が40%しかないため実質的な経営権をフィリピン人に委ねられており役員構成も過半数がフィリピン人に占められていたにもかかわらず、フィリピン人を過度に信用しすぎて競業避止や利益相反に関する契約を交わしていなかったことにあります。問題が発覚した後、役員会で利益相反を認めるという事後承認決議がなされてしまったということもあり、その決議をもってフィリピン人は自らの行為を正当化することが出来てしまいました。

ケース2
あいまいな役割分担により資金が私的流用されたケース

2019年7月、フィリピン人の兄弟があるビジネスを始めるために日本人から資金を借りて法人設立を行いましたが、コロナの流行によるパンデミックを理由に今まで一向に事業が開始されません。感染者が減りつつある2021年の半ばに差し掛かっても事業が開始されないばかりか、感染対策に追加資金が必要だということで追加借り入れを行いましたがいったい何に使ったのか使途が不明のままでした。2021年10月、最終的に日本人から提供された金額は日本円で軽く2000万円を越えていましたが、それでもなお事業は開始されません。 不審に思った日本人は会計士を雇い、今までのお金の流れと事業の進捗状況を調査することにしたところ、今まで送金した2000万円の銀行残高がわずかに500円程度しかありません。また設備投資にいくら使ったかを調べてみても領収書やお金の流れを開示しないので、それぞれの金額が判然としません。ビジネス予定地に赴くとそこは河川敷で道路は舗装されておらず、大雨が降ると冠水し、幹線道路からは何キロも離れているという荒れ地の中の土地が事業予定地だということのようでした。そこは利便性と水はけの悪い荒れた土地だけがあり、その土地を400万円程度で購入したということの他、品質の劣化した中古の生産設備の購入に200万円程度支払われただけで残りの資金は使途不明となっていました。また土地も支払が完了していたものの所有権の移転登記が行われておらず不法占有状態のまま放置されており、そんな中途半端のまま土地が放置されてわずか2年の間に1400万円が溶けてなくなっていたのです。

フィリピン人兄弟の父親は20年程、日本に住んでいたらしく資金を提供した日本人とは旧知の仲になっていたために信用できると思って資金を提供したようですが、貸し付けた事業資金の大半がフィリピン人の兄弟やその家族の嗜好品や生活費に消えてしまっていて、結局事業は開始されないまま頓挫して貸しつけた資金は返ってくることはありませんでした。この問題点は、金銭管理に関するすべての権限を一部の身内に集約してしまったことにあります。 リスク管理の観点では支出を稟議する人、支出の承認を行う人、金銭出納する人、会計を行う人といった具合にそれぞれの役割を分担することで資金の不正支出リスクは低減できます。不正支出が発生した原因は金銭を管理していたフィリピン人が会社と自分のお金を区別して管理することが出来なかったという属人的要素と組織内で金銭管理の権限や責任を分散する組織づくりができなかったことにあります。 役割と責任分担を明確にするためにも取締役会での決議などが求められます。

株主総会や取締役会で会社の重要な意思決定を明確にしておき、それぞれの役割に応じた責任と自覚を持たせることが重要です。また個々の職責において発生しうる不正を事前予測し、守秘義務契約や競業避止についての追加の契約と違反時の罰則なども明記することで海外ビジネスの成功率が変わってくることでしょう。