フィリピンでは、外国投資を促進する目的で経済特区内(PEZAやスービック等)に設立した企業や投資委員会(BOI)に登録した企業は様々な優遇措置を受けることができます。フィリピン進出企業は、法人税の減免や付加価値税や関税の免除、輸出入手続きの簡素化など多くのインセンティブを受けることができます。また一方では優遇措置適用対象企業と優遇措置適用対象外企業との間における待遇の不均衡への不満の声を受けて、税制改正の議論と相まって、優遇措置の見直しが現在進行形で議論されています。

投資優遇措置対象分野の全体像

フィリピンの外国企業への投資優遇措置は以下の枠組みで構成されています。日系企業の構成割合は全体的に製造業が多いため最も有名で最も多く利用されているのがPEZA、それからBOI、スービック及びクラーク経済特区が続いています。

(1) 分野(業種)を基準とする主な優遇措置

  1. BOIの優遇措置
  2. BOT法に基づく優遇措置

(2) 経済特区等の特定地域に対する優遇措置

  1. PEZA登録企業
  2. スービック湾自由港登録企業
  3. クラーク特別経済区登録企業など

(3) 企業形態を基準として付与される優遇措置

  1. 地域統括本部(RHQ)
  2. 地域経営統括本部(ROHQ)

PEZA

特定の業種の外国企業はフィリピンに進出する際に税制優遇やその他の投資インセンティブを受けられる制度の一つにフィリピン経済特区庁(PEZA : Philippines Economic Zone Authority)への登録制度というものがあります。これはある程度の大きな資本力や技術力或いは高い国際的競争力が求められる産業分野であるITや製造分野に対してフィリピンへの技術移転や雇用の創出を期待してPEZA登録企業に対して数年間の法人所得税の免税や優遇税率の適用、 輸出入手続きの簡素化などの投資優遇措置を付与する政策のことでありそれを管轄する国の機関のことでもあります。とりわけ輸出型企業への外国投資に対する期待が高く、外資誘致を積極的に行っています。

PEZAはフィリピン貿易産業省(DTI)に属しており、1995年に制定された特別経済区法に基づいて設立された機関です。PEZAが定める工業団地内に設立、PEZAが承認した事業を行う企業に対して、インセンティブの付与が認められています。とりわけ、フィリピンからの輸出による外貨の獲得や雇用を創出する輸出型企業に対して、以下のようなインセンティブが与えられます。

主に以下の税制優遇措置については、製造業及びITサービス業、かつ売上の70%が海外売上、つまりフィリピン国外へ輸出しているPEZA企業に対して付与される可能性があります。

PEZA優遇措置一覧

  1. 法人所得税の免除
    操業開始後4年から最長8年間、通常課税所得に対する法人所得税30%が免除(Income Tax Holiday:通称ITH)となります。
  2. 地購入品(通信・電力・水道代含む)の付加価値税(Value Added Tax:通称VAT)の免除
    資本財・原材料・補修材料の輸入関税、並びに固定資産税を除く地方税が免税となります。
  3. PEZA企業における駐在員にはPEZAビザの発行が可能。
  4. 建物の建設許可取得の簡素化 (PEZA管理事務局への申請のみ)。
  5. BIR(税務署)から輸出入証明書(ICC:Importer Clearance Certificate)の取得免除。

PEZA登録の流れ(例:製造業)

【PEZA製造業の登録、及びライセンス取得】

PEZA取締役会決議書(Board of Resolution)の取得 約1週間
PEZA登録書(PEZA Certificate)の取得 約2,3週間
付加価値税0%証書(VAT Zero Rated Certificate)の取得 約1,2週間
所得税免税証書(Certificate of Income Tax Holiday)の取得 約1,2週間
環境適合証明書(Environment Compliance Certificate)の取得※ 約4,5か月
輸出入ライセンス(Importation License)の取得 約2週間
ラグナ湖開発公社(Laguna Lake Development Authority)の認可取得※ 約6,7か月
運営開始の承認書(Notice of Approval of Start of Commercial Operation)の取得

※該当企業のみ

PEZA取締役会決議書の取得

SEC(証券取引委員会)にて会社登記を行う前にPEZA登録に必要な書類PEZAに提出したうえでPEZA取締役会で承認を受けた後に取締役会決議書が取得できます。

BIR(内国歳入庁)での登録後に発行されるCOR(Certificate of Registration)の取得後、必要書類PEZAに提出及びPEZA登録書の申請を行います。登録書の取得までには通常2、3週間要します。PEZA企業の場合、地方政府の登録は必要ありませんがIT企業などの場合はPEZA登録を行う市によっては地方政府の登録を求められる場合があります。

PEZA登録のための必要書類

開発者からの認可書(Letter of No Objection from Developer)
賃貸人からの認可書(Letter of No Objection from Lessor)
賃貸契約書(Lease Contract)
公証済確約書(Notarized Undertaking)
SEC登録書(SEC Certificate of Incorporation)
BIR登録書(BIR Certificate of Registration)
登録料支払(Payment of filing fee)
付加価値税0%証書 PEZA登録書を取得後に、付加価値税0%証書の取得が可能になります。申請から発行までには通常1,2週間かかります。当該証書の取得後、PEZAに承認された事業活動にかかる付加価値税が0%になります。
法人所得税証書(ITH) 申請から発効までに通常1,2週間かかります。また、付加価値税0%証書と同時並行で取得手続きを進めることが可能です。
環境適合証明書(ECC:Environmental Compliance Certificate) PEZA製造業製品の製造を行う上で、使用する原材料や種類、量などによって環境適合証明書の取得が必要か、または対象外であることの証明書の取得になるかどうかはPEZAにより判断されます。

※ECC申請書および必要書類をPEZAに提出してからレビューしてもらい、その後PEZAが必要と判断した際には工場の視察が行われます。書類レビューの結果を受けて追加書類の提出を経てDENR(自然環境部:Department of Environment and Natural Resource)への承認書が発行されDENRからの承認書発行後、当局へ申請料の支払いを行います。それからDENRに書類のレビューをしてもらい、Memorandum of Agreementが発行されるので代表者のサイン及び書類提出を経てECCが発行されます。

・輸出入ライセンスの取得

製造に必要な原材料や機械をフィリピンに輸入、製造した商品を海外に輸出する際に必要となります。通常はBIR(税務署)から証明書を取得後にBOC(関税局)においても証明書を取得する必要がありますが、PEZA企業の場合はBIRでの手続きが免除されます。

・ラグナ湖開発公社の認可取得

マニラの南東にあるラグナ湖周辺に工場を設立する場合は、上記のECCの取得に加え、ラグナ湖開発公社の認可(LLDAクリアランス)の取得が必要となります。
LLDAの申請書、必要書類PEZAに提出し、書類のレビューをもらいます。PEZAの判断によっては、工場の視察を行う事もございます。提出済み書類の修正、申請料金の支払いを以てしてPEZA当局からLLDAへの承認書が発行されます。
LLDA当局にて申請書、及びPEZAからの承認書とECC提出を行います。手数料の支払い、及び書類のレビューを通じてLLDAクリアランスの発行がなされます。

・運営開始の承認書
(Notice of Approval of Start of Commercial Operation)

事業が開始されてから、必要書類をPEZAに提出して当該承認書の申請手続きを行います。申請から発行まで2週間ほどかかります。留意点としては、業者に委託してオフィスの内装工事を行われている場合は、内装業者を通じてPEZAから占有許可書を取得するまで当該承認書の申請ができません。なお、オペレーションが開始してから1週間以内に当該承認書の申請が行われなければなりません。

投資委員会(BOI)

BOI 優遇措置対象となる投資奨励分野

  1. 農産物の処理を含む要件を満たした製造活動
  2. 農業、漁業及び林業
  3. 戦略的サービス
    • 集積回路設計
    • クリエイティブ業界 / ナレッジベースサービス
    • 航空機の整備・修理・オーバーホール
    • 電気自動車用のチャージステーション
    • 産業廃棄物対応
    • テレコミュニケーション
    • 最先端エンジニアリング、調達及び建設
  4. ヘルスケアサービス
  5. 集合住宅
  6. インフラ及び物流
  7. イノベーションドライバー
  8. 包括的ビジネスモデル
  9. 環境、気候変動関連プロジェクト
  10. エネルギー

BOI 登録企業に対する優遇措置

BOI 優遇措置の概要

  1. 法人所得税の免除(Income Tax Holiday: ITH)
    • 新規登録企業かつパイオニア企業(※)の場合:事業開始から6年間
    • 新規登録企業かつ非パイオニア企業の場合:事業開始から4年間(特定の条件下で最大8年まで延長)
    • 事業を拡大する場合:BOIが設ける条件を前提に3年間。
  2. 労務費に関する追加控除
    資本設備額に対する労働者数比率が、BOIの定める比率を上回る場合、登録から最初の5年間は直接労働の増加に対応する労務費の50%を、課税所得から追加控除することができる。
  3. 委託生産設備の無制限使用
  4. 登録から5年間(延長可)の監督者、技術者又は顧問としての外国人の雇用
  5. 輸出製品及びその構成部品の製造、加工又は生産に使われる原材料、供給品、半製品の国内諸税相当額を免除
  6. 保税工場・倉庫の利用
  7. 埠頭税、輸出税、課徴金などの免除
  8. 通関手続の簡略化

※パイオニア企業とは、以下に従事する登録済み企業を指す。

  1. フィリピンで、まだ商業生産されたことのない財又は原材料の生産
  2. 商品の生産にフィリピンでは実績のない新規の設計、製法又は工程の利用
  3. 農業、林業、鉱業及び/又はそれらに関連するサービス業
  4. 非在来燃料の生産又は非在来エネルギー源を利用する設備の製造
  5. 生産、製造、加工における石炭などの非在来燃料、若しくはエネルギー源の利用、又はそれらの燃料への転換

BOI 登録要件

(1) 所有形態に関する要件

株式会社の場合は、フィリピン法に基づいて設立され、議決権を有する株式の最低 60%をフィリピン人が所有していることとする。ただし、憲法又は他のフィリピン法がフィリピン人又はフィリピン人が所有・支配する法人のために留保している活動領域以外のパイオニア・プロジェクトに従事することを投資家が提案する場合、又は、生産品の最低 70%を輸出する場合はこれらの限りではない。

(2) 事業形態に関する要件

以下のうちいずれか一つを満たす必要がある。

  1. 申請プロジェクトが現行 IPP リストに記載されていること。記載されていないプロジェクトの場合は、生産品の原則 50%以上が輸出向けであること(外資 40%超の場合は 70%以上輸出)。
  2. 輸出商品を生産者から購入し、輸出業務に従事すること若しくはそれを計画していること
  3. 技術サービス、専門サービスその他のサービスの提供に従事していること若しくはそれを計画していること、又は、国産のテレビ番組、映画、音楽ソフトの直接若しくは登録業者を通じての間接輸出に従事していること若しくはそれを計画していること

(3) 資質に関する要件

申請者が、健全かつ効率的に活動する能力及び国の発展に貢献する能力を有すること。