金融市場と外国為替管理

金融市場

現地法人や支店創業から数年以内の会社は当初資本金だけでは設備投資や運転資金を賄うことができず、資金調達を外国の親会社や関連会社からの借入に依存することが大半です。現地の地場銀行からの借入は融資基準が非常に厳しいばかりか日本より高金利であることが知られているためフィリピン国内の金融機関からの資金調達は敬遠される傾向にあります。工場等の設置により高額な資金需要が必要な場合は親会社が日本の金融機関から調達を行った上で海外子会社等への内部融資を行うことが一般的となっています。フィリピンの金融機関からの融資を受ける場合は不動産やその他の担保価値の提供を求められることが多く、金融機関は公共性より自行の債権の回収可能性や収益性などの利益を重視して与信判断を下すため融資基準が厳しく、もし仮に融資を受けられたとしても担保供与を求められたり金利が非常に高いため将来的に償還に行き詰まるケースも散見されます。

外国為替管理

フィリピンの外国為替制度下では外貨に対する自由度が比較的高く、とりわけ基軸通貨である日本円やUSドル等の外貨の持込、持出、売却は自由に行うことができます。

外貨の取り扱いの注意点

(1) 外貨借入

民間企業による外貨借入が以下に該当する場合には中央銀行の事前の許可が必要です。

  • フィリピン政府系企業や政府系金融機関が債務保証を行っている場合
  • フィリピン国内の企業に対して貸付けるための原資として満期1年以上のオフショア市場からの借入をノンバンクが行う場合
  • 市中銀行を通して元利金の支払いを外貨で行う場合

(2) 配当等の国外送金

配当や利益の国外送金のためにフィリピン国内銀行を通して外貨を購入する場合は、中央銀行への事前の登録が必要となります。

(3) フォワードやスワップ等のデリバティブ

中央銀行はデリバティブの活用によるリスクヘッジを推進する立場をとっており、以下の規制に準拠することで活用が可能となっています。

  • 現物受渡の可否に関わらず、デリバティブの原資産である取引が市中銀行にとって適格であること
  • 為替スワップはリスクヘッジや(実需の)資金需要を満たす目的とした取引であること
  • ダブルヘッジなどによる投機の域に達しないこと。(契約期間内のどの時点においても想定元本が原資産の債務相当額を超えないこと。)
  • フォワードの満期は原資産の満期及び決済日より短期であること
  • 差金決済による契約はペソで決済すること

フィリピンペソは原則的に国外持ち出し不可

フィリピン国内に5万ペソ以上の持込およびフィリピン国外への5万ペソ以上の持ち出しについてはBSPの許可が必要となります。(外国為替取引マニュアル4条1項)。
また外貨についてフィリピン国内への外貨の持ち込み額或いは国外への外貨の持ち出し額に関する規制はありませんが、1万ドル相当額を超える外貨を持ち込みまたは持ち出す場合には、BSPに申告をしておく必要があります。(外国為替取引マニュアル4条2項)
特にフィリピンペソなどの東南アジアで使用されている通貨は日本円やUSドルなどの国際通貨に対してローカル通貨と呼ばれます。通貨に対する国際的信用度が高くなく、どこかの国が通貨危機に併せて売られて通貨価値が暴落してしまう可能性があります。それを予防し自国通貨であるペソを防衛をする目的でBSPは通貨保護を行っています。

居住者による外貨取得

居住者が通商以外の方法で外貨を取得する場合、その外貨はどのような目的にも自由に使用することができます(外国為替取引マニュアル1条)。
居住者が貿易などの通商や貸付・投資以外の目的(教育費用、医療費、旅費、国外居住者への給与等)で非居住者に対する支払いのために外貨を購入する場合、BSPの事前承認なしで銀行で支払いに必要な外貨を購入することができますが、銀行では購入目的などを明確にする必要があり、個人に対しては一日当たり50万ドル相当、法人等に対しては一日当たり100万ドル相当を超過する場合、支払金額や支払先に関する証拠書類(エビデンス)の提示も求められます(外国為替取引マニュアル2条)。

フィリピン中央銀行(BSP)への
届出が必要な取引と必要書類

外国投資家が資本の再配分及び資本から発生した配当や利益、収益金を送金するために外国通貨を認可代理銀行などから購入する場合、外国投資を中央銀行(BSP)に登録しておく必要があります(外国為替取引マニュアル32条)。

貿易外取引 :通商、投資、貸付以外
(教育費用、医療費、旅費、国外居住者への支払いをする)

金額に応じて以下の書類をBSPに提出する必要があります。
1,000,000 USドル超: 外貨購入申請書、証拠書類などの必要書類
1,000,000 USドル以内: 外貨購入申請書

貿易取引:輸入決済

金額に応じて以下の書類をBSPに提出する必要があります。
1,000,000 USドル超: 外貨購入申請書、証拠書類
1,000,000 USドル以内: 外貨購入申請書

資本取引・親子会社間の金銭貸借
(親子ローン)

資本取引:1年以内にBSPへの登録が必要
短期借入:30日以内にBSPへの登録が必要
長期借入:6か月以内にBSPへの登録が必要

BSPに届出及び登録された外国投資は資本の再配分や配当、利益、収益金の国外送金をするために許可代理銀行での外貨取得が認められます(外国為替取引マニュアル40条1項、2項)。

また外国資本による対内直接投資は、必ずしも円やドル建てでフィリピンに送金してきて、銀行の口座に送金されてきた外国通貨を預金しておくことが出来ると同時に必要に応じて引出したり、必要な分だけをペソ転することも可能です。